一人情シスのランサムウェア対策|社長から「うちは大丈夫?」と聞かれたときの確認ポイント
「最近ランサムウェアのニュースをよく見るけど、うちは大丈夫?」
社長や上司から突然こう聞かれたとき、すぐに「大丈夫です」と答えるのは難しいものです。
ウイルス対策ソフトは導入している。Windows Updateも実施している。バックアップも取っている。それでも、VPN機器の更新状況やMFA(多要素認証)、管理者権限、バックアップからの復元可否まで聞かれると、確認できていない項目が出てくることがあります。
問い合わせ対応やPC・アカウント管理を兼ねる一人情シスは、VPNや権限、バックアップまで手が回りにくいのが実情です。だからこそ最初に必要なのは、対策を増やすことよりも、現在できていること・まだ見えていないこと・次にやることの切り分けです。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「ランサム攻撃による被害」が組織向け脅威の1位に選ばれています。2016年の初選出以降、11年連続で10大脅威に入っています。
この記事では、社長や上司からランサムウェア対策について聞かれた一人情シス・兼務情シスを想定し、短期間で押さえたいポイントから、その後の改善、感染が疑われたときの初動まで順番にたどります。
社長から「うちは大丈夫?」と聞かれたら、まず自社のセキュリティ対策状況を整理する

「大丈夫/危険」の二択で答える必要はない
経営層から聞かれたときに、安全を断言する必要はありません。サイバー攻撃のリスクを完全にゼロにすることはできず、侵入後の被害抑制や復旧まで含めて備える必要があるからです。
反対に、確認できていない項目があるからといって、すぐに「危険です」と結論づける必要もありません。まず、分かっている事実とそうでない部分を切り分けます。
「現状・未確認・次の対応」の3つに分けて整理する
| 確認ステータス | 整理する内容 |
| 現状 | 現在実施していて、内容まで確認できている対策 |
| 未確認 | 実施している可能性はあるが、現在の状況を確認できていないもの |
| 次の対応 | 追加確認または改善が必要なもの |
たとえば、バックアップを取得していても、一度も復元したことがなければ復元可否は未確認です。ベンダー管理のVPNも、更新状況まで把握できていなければ同じです。まずは「たぶん大丈夫」を減らします。
ランサムウェア対策は「侵入・拡大・復旧・初動」の4つの視点で確認する
ここでは、一人情シスが自社の状況を点検しやすいよう、ランサムウェア対策を次の4つの視点に分けます。
| 観点 | 確認すること | 主な対策例 |
| 侵入を防ぐ | 社外から侵入されにくい状態か | VPN・機器の更新、MFA、脆弱性対応 |
| 被害を広げない | 侵入後の影響を抑えられるか | 権限管理、EDR、端末隔離 |
| 復旧できるようにする | 業務再開可能状態か | バックアップ、復元確認 |
| 発生時に対応する | 異常時に迷わず動けるか | 連絡体制、初動手順、外部相談先 |
ウイルス対策ソフトなど一つの対策だけで判断せず、侵入後や復旧まで含めて見るのがポイントです。
社長・上司への回答前に確認したいランサムウェア対策8項目

最初から大規模なセキュリティ診断を行う必要はありません。まずは1〜2営業日程度をひとつの目安に、既存の管理台帳や管理画面、ベンダーへの問い合わせなどで分かる範囲から手をつけます。この期間ですべての調査や改善を終えるという意味ではありません。
1.VPN・ネットワーク機器の更新・保守状況を確認する
社外からアクセスできるVPN、ファイアウォール、ルーターなどは優先して確認します。見るのは、機種名、サポート期限、ファームウェアやパッチの適用状況です。
外部ベンダーへ保守を任せている場合は、更新作業や脆弱性対応まで契約範囲に含まれているかも確認します。
2.OS・ソフトウェアの更新状況を確認する
更新の仕組みがあっても、すべてのPCが最新とは限りません。長期間利用していないPC、社外へ持ち出している端末、サポート終了済みのOSやソフトウェアが残っていないかを見ます。
関連記事はこちら↓↓
一人情シスのためのWindows 10サポート終了対応ガイド|PC棚卸し・移行・買い替えの進め方
3.管理者や重要サービスのMFAを確認する
MFAは、ID・パスワードが漏えいした場合の不正ログイン対策にもなります。すべてを一度に見直せなければ、管理者アカウントやVPN、Microsoft 365など、侵害時の影響が大きいものから着手します。
関連記事はこちら↓↓
情シスのID管理がバラバラ問題を解決|原因・リスクと一元化の進め方を解説
4.管理者権限の状況を確認する
管理者権限は、「誰が持っているか」だけでなく「今も必要か」まで見直します。異動・退職後も権限が残っている、通常業務で管理者アカウントを使っている、といった状態は見直し候補です。
5.EDR・セキュリティソフトの運用状況を確認する
セキュリティ製品は、導入の有無だけでなく、検知後の対応まで確認します。EDRのアラートを誰が見るのか、異常時に誰が判断するのか。自社だけで継続的に対応するのが難しければ、外部監視を利用する選択肢もあります。
6.バックアップの取得・保管方法を確認する
本番環境と同じネットワークや権限から簡単にアクセスできるバックアップは、本番データと一緒に暗号化・削除されるおそれがあります。保存場所、世代管理、削除権限、本番環境からのアクセス方法を確認します。
警察庁も、ランサムウェア対策としてオフラインを含むバックアップの取得を案内しています。
7.バックアップから復元できるか確認する
バックアップの取得成功と、復旧できることは別です。警察庁が2023年に公表した調査では、ランサムウェア被害に遭った企業・団体のうち、92%の企業・団体がバックアップを取得していました。
ですが、復元を試みた57件のうち、被害直前の水準まで復元できたのはたった11件(19%)でした。重要なファイルを実際に戻せるか、平常時に確認しておく必要があります。
参考:警察庁「令和5年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」
8.感染が疑われたときの連絡先を確認する
不審なファイルを開いた、PCのファイルが急に開けなくなった、身に覚えのないMFA通知が届いた。こうした異変が起きたとき、社員がどこへ連絡するのかを決めます。情シスから上司・経営層への報告先、ITベンダーやセキュリティ事業者の緊急連絡先も確認しておきます。
ランサムウェア対策は優先順位をつけて進める
洗い出すと複数の課題が見つかることがあります。全部を同時に改善しようとせず、自社への影響を見ながら順番を決めます。以下はその一例です。
| 優先度 | 確認・整備するもの |
| A:まず確認・対応 | VPN・外部公開機器、MFA、重大な未更新、管理者権限、バックアップ、復元可否 |
| B:次に整備 | EDR・監視体制、端末管理、ログ、社員への周知 |
| C:継続して改善 | 復元テスト、インシデント対応訓練、権限棚卸し、ルール見直し、外部支援体制 |
優先順位は、システム構成や業務への影響によって変わります。特に先送りしない方がよいのは、「対策済みかどうか分からない」項目です。事実を確認できれば、改善すべきものと、そのままでよいものを分けられます。
確認結果をもとに、社長・上司へランサムウェア対策を説明する

「現状・課題・次の対応」の順で伝える
説明するときは、まず現在できている対策を「現状」として示し、次に足りない・分かっていない部分を「課題」として挙げます。最後に、何を優先して手を打つのかを「次の対応」として伝えます。
「PCのウイルス対策、Windows Update、バックアップ取得は実施しています。一方で、VPN機器の更新状況とバックアップからの復元可否は追加確認が必要です。まずこの2点を確認し、問題があれば優先して対応します」
このように安易に安全を保証するのではなく、確認できた事実と次の行動を伝えるとスムーズに報告ができます。
製品名ではなく、業務への影響で伝える
今回の見直しを経て、導入が必要な製品があった場合、「EDRを導入したい」とだけ伝えても、経営層には必要性が伝わりにくいことがあります。
「社員PCや共有データが利用できなくなると、受発注や請求などの業務が止まる可能性があります。現在は侵入後の検知・対応体制が弱いため、その部分を補強したいです」
製品そのものよりも、どの業務リスクを下げるための対応なのかを示すと、予算や優先順位の話につなげやすくなります。
ランサムウェア感染が疑われたときの初動対応

平常時の対策とあわせて、感染が疑われたときの動きも決めておく必要があります。
1.感染が疑われる端末をネットワークから隔離する
ファイルが急に開けなくなった、不審な暗号化画面が表示されたなどの異常があれば、LANケーブルを抜く、Wi-Fiをオフにするなどしてネットワークから隔離します。
また、各機器の電源オフに関しては慎重に実施する必要があります。警察庁からは、感染原因などの調査に必要なログが消失する場合があるため、PCやネットワーク機器等の電源は落とさないようにと案内されています。
2.発見時刻や端末情報などを記録する
発見時刻、利用者、端末名、表示されたメッセージ、直前に行っていた操作などを残します。異常な画面はスクリーンショットや写真でも記録しておきます。
3.社内の連絡ルートに沿って報告する
原因を完全に調べてから報告しようとすると、共有が遅れます。業務停止につながる可能性がある場合は、決められたルートに沿って上司や経営層へ早めに報告します。
4.ITベンダーやセキュリティ事業者へ連絡する
自社だけで判断できない場合は、契約しているITベンダーやセキュリティ事業者へ相談します。警察庁も、ランサムウェア被害が疑われた場合には警察への通報・相談を案内しています。
5.被害範囲を確認し、復旧を進める
対象端末だけでなく、ほかのPCやサーバー、ファイル共有などへの影響も洗い出します。安全が確かめられた範囲から、業務の優先順位に沿って復旧します。
一人情シスで難しい監視・セキュリティ対応は外部支援も検討する

ランサムウェア対策には、一人情シスが通常業務と並行して継続するには負担の大きい作業もあります。社内で判断することと、外部の専門家を活用しやすい部分を分けて考えます。
| 社内で判断すること | 外部支援を活用しやすいこと |
| 守るシステム・情報の優先順位 | セキュリティ診断 |
| 対策予算 | VPN・ネットワーク機器の確認 |
| 社内ルール | EDRの設計・導入 |
| リスクをどこまで許容するか | セキュリティ監視 |
| 外部事業者の選定 | バックアップ設計 |
| 経営層との調整 | 脆弱性確認、インシデント調査・復旧支援 |
社内で判断することを整理する
どの業務を止めたくないか、どのデータを優先して守るか、どこまで予算をかけるかは社内で決める必要があります。
専門的な対応は外部支援も活用する
24時間監視、専門的な脆弱性確認、被害発生時の調査などは、「自分でできるか」だけでなく、通常業務と並行して継続できるかで判断します。
被害発生に備えて相談先を決めておく
外部支援を利用する場合も、被害が発生してから探し始めると出遅れます。平常時に相談先と対応範囲を確認しておくと安心です。複数のベンダーを利用しているなら、最初に誰へ連絡するのかも決めておくと迷いにくくなります。
関連記事はこちら↓↓
情シス担当者が一人しかいない会社に潜む課題とは?
社長・上司への説明後は、不足しているランサムウェア対策を順番に改善する
社長や上司へ現状を説明した後は、未確認・要対応となった部分を順番に改善します。ここで示す4週間は、対策を1か月で完成させる計画ではなく、改善を動かし始めるための一例です。
1週目|追加確認が必要な項目を整理する
初回で判断しきれなかった項目は、ベンダーへの問い合わせや管理画面のチェックで詰めていきます。
2週目|すぐに対応できるものから改善する
不要な権限の削除、未更新端末への対応、MFA設定など、比較的短期間で改善できるものから進めます。
3週目|初動体制と外部支援を整理する
社内の報告先、ベンダーの緊急連絡先、外部支援の対応範囲を洗い出し、必要なら簡単な初動手順を残します。
4週目|残った課題と必要な予算を経営層へ共有する
すぐに改善できないものは、業務への影響、必要な対応、予算や外部支援の有無を整理して共有します。
まとめ|自社のランサムウェア対策の現状と次の対応を明確にする

社長や上司からランサムウェア対策について聞かれたとき、無理に安全を保証する必要はありません。短期間で分かる範囲をまとめ、できている対策、まだ分かっていない項目、次に進める対応を示します。
その後は、自社への影響を見ながら不足している部分を順番に改善します。監視や専門的な調査まで一人で抱えず、社内で判断することと外部へ任せることを分けることも、継続できる運用には欠かせません。
社内だけで整理や対応が難しい部分があれば、日常の情シス運用を含めて外部へ相談する方法もあります。
情シスパートナーでは、PC・アカウント管理をはじめ、日常の情シス業務を幅広く支援しています。「どこまで対応できていて、何から手をつければよいか分からない」という場合も、まずは今の運用や対策状況を整理するところからご相談いただけます。
資料請求も導入のご相談も無料で受け付けています!