IT人材不足が企業に与える影響とは?「今できてるよね」と言われた一人情シスの打開策
「今の人数では、そろそろ厳しいです」
そう伝えたとき、
「でも、今できてるよね」
「採用はすぐには難しいから、もう少し今の体制でお願い」
「外注も費用がかかるし、とりあえず頑張ってもらえない?」
そんな返事をされたことはないでしょうか。
確かに、社員からの問い合わせには対応できている。入社する社員のPCも何とか間に合わせている。アカウントの発行や削除、システムトラブルへの対応も止めてはいない。
しかし、目の前の業務が何とか回っていることと、IT人材が足りていることは別の問題です。
日常対応を優先する裏で、IT資産の整理やセキュリティの見直し、マニュアル整備、システム改善、DX・AI活用などが後回しになっているかもしれません。担当者しか分からない設定や業務が増えていても、トラブルが起きない限り表面には出にくいものです。
この記事では、IT人材不足が企業の業務に与える影響を整理するとともに、「今できてるよね」と言われた一人情シス・兼務情シスが、現在の状況をどう見える化し、上司や経営層へどう伝えるかを考えます。
後半では、仕事を「残す・減らす・任せる」に分け、採用だけに頼らず負担を軽くする方法も紹介します。
「今できてるよね」――IT人材不足の影響が見えなくなる理由

一人情シスや、総務・経理などと情シス業務を兼務している担当者は、急ぎの仕事から順番に処理するうちに、少ない人数でも何とか業務を回せてしまうことがあります。
ただし、その状態を「今の人員で足りている」と判断するのは早計です。
業務が回っているように見えても、人材に余裕があるとは限らない
社員から「PCにログインできない」「Wi-Fiにつながらない」「新入社員のアカウントを作ってほしい」と連絡が来れば、後回しにはしにくいでしょう。
こうした業務を担当者がその都度処理していれば、他部署からは「問い合わせには対応してもらえている」「入社日にはPCが準備されている」「システムも動いている」と見えます。
しかし実際には、「自分がやった方が早い」「社員を待たせるわけにはいかない」と、担当者が予定を組み替えながら対応していることもあります。
そのため、人材が足りているかどうかは、今できている仕事の量だけでは判断できません。
目の前の業務を止めないために、担当者がどのように仕事を調整しているのか。その裏側まで見ることが重要です。
IT人材不足の現状と原因|DX・AIで需要が拡大する一方、人材確保は難しい
このような状況は、特定の会社だけで起きているわけではありません。
IPAの調査でも、DXを進める企業の間で人材不足が課題として確認されています。
IPAが2025年に公表した「DX動向2025」では、DXに取り組む日本企業のうち、DXを推進する人材の「量」が「大幅に不足している」「やや不足している」と回答した企業の割合は85.1%でした。
参考:https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2025/press20250626.html
DX・AI活用の推進でIT人材への需要が拡大している
情シス業務には、PC管理、アカウント管理、問い合わせ対応、システムやネットワークの一次対応など、日常的に継続して発生するものがあります。こうした業務に加え、DX、クラウド、セキュリティ、データ活用、生成AIなど、新しいテーマへの対応も求められるようになってきているのです。
IPAの「DX動向2026」でも、DX推進人材の過不足に加え、AIの影響を踏まえた人材育成・確保やAI関連人材の充足状況が、重要なテーマとして扱われています。
参考:https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html
IT人材の確保を考えるうえで、労働人口の減少も無視できない
総務省統計局が2026年8月20日に公表した人口推計では、2026年3月1日時点の15~64歳人口は7,329万人で、前年同月より26万5千人減少しています。
参考:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.htm
もちろん、労働人口の減少だけでIT人材不足のすべてを説明できるわけではありません。
IT人材には専門的な知識や経験も求められるため、企業が必要とするスキルと人材側の経験が合うかどうかも、人材確保を考えるうえで重要な要素です。
採用・育成だけでは短期間で人材不足を解消しにくい
採用や社内人材の育成は、IT人材不足への重要な対策ですが、即効性のある対策とは言えないのが現状です。
必要な経験やスキルを持つ人材がすぐに採用できるとは限りませんし、社内で人材を育成する場合も、知識や経験を身につけるまでには時間がかかります。
そのため、人材不足への対応を考える際には、採用・育成を進めながら、現在の体制で業務をどう回していくかも同時に考えることが必要になります。
IT人材不足が企業の業務に与える主な影響

では、IT人材が不足した状態が続くと、企業の業務にはどのような影響が表れるのでしょうか。
ここでは、日々のIT運用そのものではなく、その先に起こる「改善の停滞」「属人化」「IT管理へのしわ寄せ」「新しい施策の停滞」「他部署への影響」に分けて見ていきます。
改善業務に着手しにくくなる
日々のIT運用を優先していると、業務環境そのものを改善する仕事に着手しにくくなります。
たとえば、問い合わせを減らす仕組みづくりや、PC管理方法の見直し、社内のIT運用ルールの整備などの、緊急ではないが必要な業務に着手することが難しくなるのです。
こうした改善が進まなければ、現在の手間がそのまま残り、同じ対応を繰り返すことにもつながります。
IT業務の属人化が進む
担当者が少なければ、システム設定や過去の経緯、ベンダーとのやり取りなどが特定の人へ集中しやすくなります。「管理者情報を知っているのは一人だけ」「契約内容を把握しているのは担当者だけ」という状態では、その担当者が休んだり、異動・退職したりしたときに初めて問題が表面化することになることもあります。
普段は支障がなくても、「その人がいないと分からない仕事」が増えていないかは確認しておきたいポイントです。
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セキュリティ対策やIT管理に手が回りにくくなる
アカウントや権限の確認、IT資産情報の更新、バックアップの確認など、IT環境を維持するためには定期的な管理が欠かせません。
一方で、こうした業務は目の前の問い合わせのように即時対応を求められるものでもありません。
そのため限られた人員で運用していると、予定していた確認や見直しを十分に進められないこともあります。
ここで重要なのは、「人材不足だからセキュリティ事故が起きる」と単純に結びつけないことです。問題は、本来予定していた確認や改善を十分に実施できない状態が続くことにあります。
DXやAI活用などの新しい取り組みが進みにくくなる
会社から「生成AIを使って業務効率化できない?」「DXを進めたい」と求められても、新しい施策には調査や検討の時間が必要です。
さらに、利用範囲や社内ルール、セキュリティ面の整理も欠かせません。
「以前も一人でできていた」と言われたときには、以前と現在で求められている仕事内容が同じなのかも確認したいところです。
今のシステムが動いていることと、これから会社が進めたい施策に着手できていることは、分けて考える必要があります。
システム改善の遅れが他部署にも影響する
IT環境は、営業、総務、経理、人事など、さまざまな部署の業務を支えています。
システムや運用方法を見直す余力がなければ、「手作業を減らしたい」「今のやり方を変えたい」という他部署の要望にも対応しにくくなります。
IT人材不足の影響は、情シス担当者の負担だけでなく、他部署の業務改善にも及ぶ可能性があるのです。
人材不足を「忙しい」で終わらせないために業務への影響を見える化する
上司へ「最近、問い合わせが多くて忙しいです」「一人ではそろそろ厳しいです」と伝えても、会社側には判断しにくいことがあります。
必要なのは、どれだけ忙しいかではなく、現在の体制によって何ができていて、何ができなくなっているのかを整理することです。
まず、自分が抱えている仕事を次の4つに分けてみます。
| 分類 | 確認する内容 | 例 |
|---|---|---|
| 今できている仕事 | 優先して対応できている業務 | 問い合わせ、PC設定、入退社対応 |
| 後回しになっている仕事 | 必要だが十分に進められていない業務 | セキュリティ見直し、IT資産整理 |
| 自分しか対応できない仕事 | 担当者不在時に止まる可能性がある業務 | 管理者設定、ベンダー調整 |
| 今後新しく求められる仕事 | 現体制では時間を確保しにくい業務 | DX、AI活用、システム刷新 |
今できている仕事を書き出す
問い合わせ、PC設定、アカウント管理、入退社対応など、現在優先して処理している仕事を書き出します。
その際、その仕事を処理するために、別の何かを後ろへずらしていないかも振り返ってみます。
たとえば、PCトラブルの対応によって予定していた別の作業が翌週へずれたのであれば、「PCトラブルには対応できた」だけでなく、予定変更まで含めて現在の状況として整理します。
後回しになっている仕事を洗い出す
次に、「必要だと分かっているが、時間が取れず進んでいない仕事」を書き出します。
ここでは内容だけでなく、どのくらいの期間止まっているかも確認してみましょう。
「今週できなかった」のか、「数か月手をつけられていない」のかでは、会社への影響も変わります。
自分しか対応できない仕事を確認する
「自分が不在だったら誰が対応するのか」という視点で、担当業務を棚卸しします。
システムの設定変更、ベンダーとの調整、障害発生時の判断など、代わりに対応できる人がいない仕事があれば整理しておきます。
休暇や急な欠勤時にも自分へ連絡が来る仕事は、個人の問題ではなく、IT運用体制として考えたい項目です。
今後新しく求められる仕事を整理する
DX、生成AI、セキュリティ強化、システム刷新など、今後会社から求められそうな仕事も書き出します。
まだ着手していない仕事であっても、現在の業務に追加されたときに、どの程度の時間や対応が必要になりそうかを考えておくと、今後の負荷を見通しやすくなります。
この4つに分けることで、「忙しい」という感覚を、会社側も確認できる具体的な情報へ変えていきます。
IT人材不足の現状をどう伝える?「とりあえず今の体制で」と言われたときの説明方法

人材不足について相談しても、「採用はすぐには難しい」「外注にも費用がかかる」「とりあえず今の体制でお願い」と言われることはあるでしょう。
会社にも予算や採用計画があります。
相談したからといって、すぐに希望どおりの体制になるとは限りません。
だからこそ、「分かりました。何とかします」とすべてを引き受けるのではなく、今の体制で何を優先するのかを会社と共有します。
「全部やります」を前提にしない
問い合わせも対応する。PCも準備する。アカウントも管理する。セキュリティも確認する。DXも考える。人員や勤務時間が変わらないまま仕事だけが追加されれば、すべてを同じ優先度で進めることはできません。
新しい仕事を依頼されたときは、「できます」「できません」の二択ではなく、現在の業務との優先順位を確認します。
「何をやるなら、何を後回しにするか」をセットで伝える
たとえば、上司から「生成AIの社内活用について調べてほしい」と言われたとします。
その場合は、
「対応可能です。ただ、今月は入退社対応が多いため、AI活用の調査を優先すると、予定していた別の改善業務は来月になります」
と伝えるところから始めてみましょう。
ポイントは、「忙しいから無理です」と訴えることではありません。
今の体制で何を優先でき、その代わり何が後ろへずれるのかを示します。
優先順位を情シス一人で抱えず、会社の判断に戻す
たとえば、こんなやり取りです。
上司:
「採用はすぐ難しいから、とりあえず今の体制でお願い」
情シス:
「承知しました。その場合、問い合わせ対応と入退社対応を優先すると、今月予定していたセキュリティ設定の見直しは後ろ倒しになります。この優先順位で進めてよいでしょうか」
どの仕事を優先するかは、会社の業務やリスクにも関わる判断です。
これは責任を押しつけるのではなく、会社としてIT業務の優先順位を共有するための相談になります。
人材不足を打開する第一歩は、まず、不足分を担当者一人が吸収し続ける状態を変えることです。
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IT人材不足の対策は「残す・減らす・任せる」で業務を見直す

IT人材が足りないと、「人を採用しなければ解決できない」と考えがちです。
もちろん採用が必要な企業もありますが、採用できるまで現在の担当者がすべてを抱え続ける必要はありません。
今ある情シス業務を「残す・減らす・任せる」の3つに分けて考えると、採用以外にも取れる選択肢が見えやすくなります。
【残す】判断が必要な業務は社内で担う
社内に残したいのは、自社の事情を踏まえた判断が必要な業務です。
たとえば、IT方針やシステム導入の最終判断、社内ルールの策定、予算や優先順位の決定、各部署との調整などが挙げられます。
外部サービスを活用する場合でも、「何を優先するのか」「どこまで外部へ任せるのか」といった方針は、社内で決めておく必要があります。
社内で担う役割を明確にしておくと、そのほかの業務を「減らせるもの」「任せられるもの」に分けやすくなります。
【減らす】標準化・AI・ITツールで定型業務を減らす
次に見直したいのは、今ある作業そのものを減らせないかという点です。
同じ問い合わせが何度も発生しているのであれば、FAQやマニュアルを整備する。毎回同じ手順で行っている作業であれば、手順を標準化したり、ITツールで効率化したりする方法があります。
定型的な文章作成や情報整理では、生成AIを補助的に使うことも選択肢の一つです。ただし、新しいツールを導入すると、設定やアカウント管理など別の運用業務が増えることもあります。
導入そのものを目的にするのではなく、「どの業務を減らしたいのか」を先に決めておくと、必要なツールや仕組みを選びやすくなります。
【任せる】社内分担と外部委託で情シス業務を切り出す
「自分しかできない」と思っている仕事の中にも、手順や対応範囲を決めれば、ほかの社員へ分担できるものがあります。
簡単なPC設定や社内ツールの基本的な問い合わせ、定型的な入退社対応などは、手順を整えたうえで社内分担を検討できます。ただし、仕事をそのまま別の社員へ移すだけでは、負担の付け替えになってしまいます。
「どこまで対応するのか」「判断に迷った場合は誰へ確認するのか」まで決めておくと、特定の担当者に業務が集中しにくくなります。
一方で、社内だけでは分担しにくい業務については、外部へ任せる方法もあります。
ヘルプデスク、PCの調達・キッティング、IT資産管理、定型的なアカウント対応、システムやネットワークの運用支援など、外部へ切り出せる業務はさまざまです。
現在の担当者が時間を取られている業務を洗い出し、
- 社内で判断する必要がある業務
- 手順を決めれば社内で分担できる業務
- 外部へ任せられる業務
の3つに分けてみると、自社に合った役割分担を考えやすくなります。
たとえば、IT方針やシステム導入の判断は社内に残し、日常的な問い合わせ対応やPCのキッティングを外部へ任せる、といった分け方も考えられます。
採用までの期間だけ一部業務を外部へ任せたり、社内分担と外部委託を組み合わせたりする方法もあります。
外部委託は、社内の担当者が判断や改善など優先度の高い業務に時間を使うための手段の一つです。
「どこまで任せるか」を先に整理しておくと、必要な支援も選びやすくなります。
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まとめ|IT人材不足は「今できている業務」だけで判断しない

「今できてるよね」
そう言われると、「確かに、できてはいる」と言葉に詰まってしまうかもしれません。
しかし、外側から見える業務を回せているだけでは、現在の体制が十分かどうかは分かりません。
まずは、自分の仕事を「今できている仕事」「後回しになっている仕事」「自分しかできない仕事」「今後増える仕事」に分けてみてください。
そのうえで、「現在の体制でAを優先すると、Bは後回しになります」と、業務の優先順位を会社と共有します。
さらに、仕事を「残す・減らす・任せる」の視点から見直せば、採用だけでなく、育成、AI・ITツール、外部委託といった選択肢も検討できます。
限られた人員で何を担い、何を減らし、何を外へ任せるのかを会社として決める。
それが、「今できてるよね」と言われ続ける状態から抜け出すための一歩になります。
とはいえ、「何を自社に残して、どこから外へ任せればいいのか」を自社だけで整理するのが難しい場合や、その時間を作ることが難しい場合も多いです。
「情シスパートナー」では、ヘルプデスク対応、各種アカウント管理、IT資産管理、PC調達・キッティング、インフラ運用など、情シス業務を幅広く支援しています。
一人情シス・兼務情シスで日常対応に追われ、改善業務まで手が回らない場合は、すべてを自社で抱え続ける前に、外部へ切り出せる業務がないか一度整理してみてはいかがでしょうか。
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